経済学入門III:マクロ経済学
Stephen J. Turnbull
筑波大学システム情報研究科准教授
2010年12月20日(月)
社会工学類 総合科目A
2010年度3学期
量的マクロデータGDP
- GDP(国内総生産量)は国内居住者のそれぞれの財の量の合計
- 「量」はリトル・キログラムなどで測定してはいけない
- 二重計算してはいけない
- 最終財だけを数えてもよい
- 付加価値で計算してもよい
「国民会計」の詳細
- 国内生産GDP(日本国内で誰でもによる)vs.国民生産GNP(どこでも日本国籍の人・企業による)
- 前者の方が日本国の景気を表し、後者が日本人の生活水準を表す。
- GNP:日本の生産者が海外の生産で生んだ価値は日本のGNPと数えるが相手国のGDPである
- 二重計算について
- 違う財の計は? 支出の足し算
- 中古車などは? その売買だけで国の車数が変わらない:非GDP
- 在庫は? その増減によるGDPが変わる。売るだけで消費者の支出が増え、在庫が減るので非GDP
- 中間財は? その分は非GDP(GDPに含まれているのは付加価値だけ)
- 家などは? 新しい家そのものは非GDP:家はストックである、GDPはフロー。家によるサービスの価値はGDPに含まれる
名目GDPと実質GDP
- インフレ等で全ての価格が上がって生産が増えない場合、GDP上昇。
- 国民生活が改善されないのでこの計測法に不満を感じる
- 価格指数を利用して正確な計算を導き出す
- いろな価格指数があるがこの場合に「GDPデフレーター」を用いる。
- 実質GDP = 名目GDP/GDPデフレーター。(国民会計上の定義です。)
マクロで使うデータ:価格指数の計算
- 複数の人・企業のある財の需要量の合計を価値で計算するには問題ない:市場の定義により皆が同じ価格を払うから価値の足し算か量の足し算を価格に掛けるかかまわない
- 複数の財の需要量を合計する場合には価値しかないがその財の「価格」はどう定義すればよい?
- 「統合財の価格が上がったか」の簡単な判断は全ての財の量が変わらなかった場合にだけできる。
- 価値の合計が上がった場合には「価格」か「量」かどちらが変わったか。
- それぞれの量のリストを固定して価値の計算をすることが「価格指数」の定義である
価格的マクロデータGDPデフレーター
- ある年度を決め、その年度の各財の量により「価値」を計算して、それの base year の価値との比率が GDP デフレーター
- この定義が分かりやすいがいくつかの問題が生じる
- 新しい財が市場に出るとき
- ものの質が変わるとき
- 特に補完財の質が問題。車の燃費が10%上がり、ガソリンの需要量が5%下がったときにGDPはガソリン代の5%ぐらい下がるが人にとっての便益はガソリン代の5%上がった!
- チェーン指数は毎年に昨年度の量を利用するので
その他の国民所得
- すでに述べたGNPから減価償却を引くと「国民純生産NNP」を導き出す;経済成長論にぴったり。
- 税金の取扱いも変化できる;税(負)や生活保護(正)などと海外からの金融による所得を含むと消費者の生活に直接に使える所得を意味する(国民所得など)
- 基本はGDP:国内での経済活動をはかり、景気を表す。
フローとストック
- 量に関する(価格は相当する量変数により)
- フローはある期間中に流れてくる量;その量は期間の長さのわりに大きくなる
- ストックはある瞬間に存在する量
- 使いかたが異なる
- 短期的分析はフローに集中する
- 長期的分析はストックを重視するがフローとの関係が大事
フローとストックの例
- 所得はフロー、財産はストック
- 資本はストック、投資はフロー
- 消費者にとっては車はストック、ドライブは(車のサービスの)フロー
- 音楽CDはストック、ラジオで聞く音楽はフロー
- 学期の成績はフロー、数年の平均はストック
フロー、ストック、と市場
- 実際経済では同じものがフローともストックとも市場に出ている
- 別の価格で売る場合には別々に市場がある
- たとえ、新車市場とレンタカー市場
- その場合、車の例と同じくストックは長持ち、使っても減らない資本で、フローはそれによるサービス
- 逆に消耗品の在庫も例だがストックでもフローでも同じ価格である
- 天然資源(石油など)は重要なケース;在庫に似ている:資産と消費は同じ市場
ストックとフローの関係:所得と財産
- 所得はフロー
- 財産はストック
- 財産を資本として使えば所得を生む
- 所得の使わない部分を貯蓄すると財産に変換
- ストックはフローの積分、フローはストックの微分
経済全体の循環
- 経済の基本が交換、つまり物々交換
- それで「価値の循環」が分かる
- お金(貨幣)を導入すると間接的な交換ができる。間接だが、本当に循環となる。
- お金は使えないので回るだけですが、逆に流れる実際財の中では
- 消費者の所有生産要素(労働、融資);「外」から経済の循環に入る
- 消費者の消費する最終財(たべもの):消費すれば経済からその分がなくなる
- 中間財:経済の中でぐるぐる回る
フローの恒等式
- 市場の働きにより賃金と労働の価値は等しい
- 同じように車の価格とその価値は等しい
- つまり、逆に行くフローのバランスを守る
- ミクロ経済学の原則から分かる
- モデルを簡単にするため(反)時計回りの循環の価値はどこで量ると同じ
失業率
- 失業率の定義が大事
- 失業率=1- (雇用人口/労働人口)
- 労働者とは?
- アメリカでは「働きたい」という主婦は労働者
- 日本では定義として就職できるまで非労働者
- また、イギリスでは入学を1ヶ月遅れると失業保険がもらえる学生
- 何も売らないセールスマンは100%雇用者?
資本
- 生産されて積み上げた生産要素
- 今まで説明した変数と違ってストックだ(他は全てフローだ)
インフレ
- 一般的に「物価」が上がること
- GDPデフレーター
- 部分的な価格指数も
- CPI(消費者価格指数):特に労働(賃金)が入っていないので生活
のコストを測定する
- PPI(生産者価格指数)物的資本、中間財、と労働の価格を統合する
- 各産業にも相当するCPIとPPIがある
- これである式が使えるようになる
- データをこの原則に合わせなければ
- それぞれの指数は「NNNN年度ベース」型と「チェーン指数」型を使う
宿題#1:GDPに関連する計算(提出方法)
締め切り: 1月18日8時(その後も提出可、ただし24時間毎に最高点数が10%カット)
言語: 英語か日本語で解答してください
提出先: emailで macro-hw@turnbull.sk.tsukuba.ac.jp あて
備考: 個人emailへ送ると紛失場合があります。macro-hwまで送りましょう。
宿題#1:GDPに関連する計算(問題)
- 「GDP計算例」のテーブルを見ると、計算をせずに各財の量・価格を見るとGDP、デフレーター、そしてチェーン指数それぞれの変化は想像できますか?短く説明すること。
- 「GDP計算例」のテーブルを計算すること。問1の予測は正しかったでしょうか?
- 下記の数字を用いてGDP、デフレーター、そしてチェーン指数を計算せよ。チェーン指数には異変が気づきますか?
- Excelなどの計算ソフトで4つの財の10年分の年次価格と生産量のデータを取り扱えるプログラム(表計算等)を作成せよ。それをメールに添付すること。そのプログラムを保存して下さい(後の宿題に使います)。
GDP計算問題については GDP Worksheet と同じ形で行うこと。
宿題#2:財のストック、フロー、付加価値とGDP(提出方法)
締め切り: 1月18日8時(その後も提出可、ただし24時間毎に最高点数が10%カット)
言語: 英語か日本語で解答してください
提出先: emailで macro-hw@turnbull.sk.tsukuba.ac.jp あて
備考: 個人emailへ送ると紛失場合があります。macro-hwまで送りましょう。
宿題#2:財のストック、フロー、付加価値とGDP(問題)
新聞を読む。新聞記事にある「もの」についての話があれば、そのものについては
- 新聞の名前と日付を書いて、記事の題目とページ番号を書くこと。
- ものの名前を書く。
- このものの話は、「ストック」(例えば、在庫)を扱うか「フロー」を扱うか。記事から引用を用いてその判断の理由を書く。
- この話の中の財の役割は、「GDPの増減」の意味を持つか。記事から引用を用いてその判断の理由を書く。
3つの「もの」を選んで、それぞれについて上記の1、2、3、4を書くこと。ただし、各々の説明には別の記事から引用すること。
宿題#2:財のストック、フロー、付加価値とGDP(例)
- 日本経済新聞 2010/12/07 p. 1 「電気自動車向け投資拡大」
- リチウムイオン電池
- フローです。「…生産能力を年間200万キロワット時(電気自動車8万台分強に相当)に増やす」と書いてある。この電池の生産についての意味なので「フロー」と判断する。生産はフローだ。また、量(「200万キロワット時」)/時間(「年間」)という形だ。これは「フロー」の単位だ。
- GDPの増減に当てはまらない。「電気自動車が搭載する電池部品・材料向けの投資が本格化する」と書かれたので電池は電気自動車の部品であり、「中間財」だから。